アート

アルスエレクトロニカ初出展レポート③:オープニングで感情が乱高下

このレポートは、海外展示ビギナーの市原がメディアアートの祭典アルスエレクトロニカで初めての海外出展に奮闘していた日々をまとめた日記的なレポートです。半分自分のための思い出完全まとめ的な感じにつき、読みやすさや要約性などは犠牲にしておりますので、あしからず。。前回までの日記はこちら↓

設営初日〜2日目市原えつこのアルスエレクトロニカ初出展レポート①:展示設営編
設営最終日:アルスエレクトロニカ初出展レポート②:設営最終日編

ついにフェスティバルがオープン

はやいもので、ついにフェスティバル初日を迎えました。
昨日までは設営作業モードだった他のアーティストたちも、今日は華やかな装いになっていました。
私もバッキバキに気合いれるために正装の巫女衣装で登場。

プレスカンファレンスまで少し時間があったので、他の受賞アーティストたちも結構展示を見に来てくれた。台湾のかっこいいアクティビストグループ「g0v.tw」の人たちや、よく朝食会場で一緒になっていた女性アーティストのKristin(見た目がド好み)など。

あと、メガネをかけた知的な男性がいたので、ジャーナリストの人かな?と思ってたら違くて同じ部門の受賞アーティストでした。InteractiveArt+部門Honorary Mention受賞作品、”Moniter Man“のYassine Khaled。Insta見せてもらったのですが作品がめちゃ面白いし媒体もデバイスアートに絵画や彫刻、パフォーマンスまで幅広く多才。しかも良い人。モロッコ生まれで現在はヘルシンキで活動しているとのこと。

まずはプレスの記者会見&ウォークスルー対応……で、撃沈

オープン早々に美術館のキュレーターのみなさんがプレスの方々をゾロゾロと連れてきてくれ、アーティストは作品について彼らに説明をすることになります。

が、この時、まだ西欧圏での作品の説明のコツを心得ておらず、いきなり東洋の49日の概念の説明とかから初めてしまったため、いまいちプレスの方々も「?」と要領を得ていなかった模様(多分英語が拙いせいもある)。
もともと皆さん強面気味の方が多かったのですが、体感的にさらに強面MAXに感じられ、なかなか心が折れそうになってました。

(とはいえ、この時の写真が後にアルスエレクトロニカのハイライト特集記事にガッツリ使われていたので、巫女着て出ておいて正解だった…… →This was the 2018 Ars Electronica Festival!

は〜〜、つら。。。となっているところに大学時代からの友人、久我尚美ちゃんがやってきたので若干ホッとしました。異国で昔なじみに遭遇するとは。。
久我ちゃん写真うまいので、せっかくなので写真を撮ってもらうことに。良い感じのをいただきました。

Yassineがランチに誘いにきてくれたので、巫女から普段着に着替えて美術館ちかくにあるEmikoさんおすすめのイタリアンへ。
午前にベッキベキに心が折れていたのですが、Yassineののんびり優しいキャラに少し癒やされました。
しかし彼はなかなかやり手のようで、レジデンシーのプログラムに受かりまくり、展示やパフォーマンスでヨーロッパ中を行脚しているそうな。すげえな(そして後から同い年であることを知る。マジか……!!日本だとドンピシャ同い年の作家が少ないので、アルスで同世代のアーティストとたくさん出会えたのは嬉しかったです)
「レジデンスに参加するのは君のキャリアにとって良いと思うから」とパリの面白そうなレジデンス情報を教えてもらい、大変ありがたい。

ヨーロッパの方がアート市場が大きいイメージがあったのですが、インディペンデントのアーティストとしてやっていくのが大変なのは万国共通というのを知りました。Yassineもかなり狭き門をくぐって活動資金を得ているらしい。

たまたま後藤映則さんが同じ店にやってきたので、ランチ合流。
「は〜〜、プレス対応難しいっすわ…」「これからさらにテレビ取材か、心折れそうっすわ……」と後藤さんに愚痴りつつ、気付けば良い時間になってたので次の現場に向かう。

ドイツのTV番組取材対応で四苦八苦

14時にあらかじめドイツのTV番組から取材アポイントメントが入っていたのですが、予想していたよりガチな撮影隊がきていました。


しかも結構複雑な質問を想定していたらしく、日本語ー英語の通訳がいると言われ、私としては拙いながらも直で英語でやり取りしようと思っていたので、やや情けない気持ちに…。「誰か日本語と英語の通訳ができる友人はいないですか?」とディレクターさんに聞かれ、悩む。。
うーん日本語通訳、、、、通訳ねえ、、、ここオーストリアだからなあ、いないよなあ、、、、
あ、いた!!!!

日本人受賞者の後藤さん(USに留学してた帰国子女)の展示ブースに駆け込み、「後藤さん!マジすんません!!!本当に申し訳ないのですが今からテレビ取材の通訳やって頂けませんか・・・!?」と土下座しそうな勢いで懇願しました。
おい自分の取材のために他の受賞作家頼ってんじゃねえよ失礼だろうがバカヤロウがと自分を殴りたくなったのですが、背に腹は代えられない。「うーん、できるかなあ〜、、」と不安げながらも快諾してくださり、後藤さんの通訳のおかげでインタビューはスムーズに完遂できました。神。。

その後はじっくり展示ショット撮影。ロボットの人格を差し替えるところなども実演。ヨーロッパのテレビ番組はかなり画作りにこだわる感じがしました。めちゃ舐めるように長時間撮ってた。プロ意識が高くてかっこいい撮影隊でした。

はやく一人で英語での取材対応ができるようになりたいものです。。後藤さん本当にありがとうございます。

からの、ニコスのパフォーマンスリハ

取材対応してたら意外と良い時間に。土曜深夜に開催される和田永さんたちのパフォーマンスにも後藤さんとともに演者として出る予定だったので、16時からはリハーサルの予定があり和田さんブースに移動しました。

そこには平常運転の和田さんがいて安心感が。

事前に音源はいただいていたので、入場からの通しの流れを一通りやってみて、「いや〜、絶対楽しいし盛り上がるじゃんこれ」と後藤さんとテンション上がってました。

日本人のHonorary Mention受賞者の和田さん、後藤さん、私で「Honorary Mentions」というバンドを結成した、という想定(和田さん発案)で、賞状をかかげながら入場することになったのですが
その後Honorary Mentionの賞状を破って「We wanna get Golden Nica!!! | ゴールデンニカが欲しかった!!!」と叫ぶパフォーマンスをするかどうか……というところでみんなで迷いました。誰が本当に破るか、のチキンレース……!!

疲労がピーク

リハも終わり解散。今日はちょっと心身ともに疲労がすごくて疲れまくってました。日本語圏だと手慣れて何のつっかかりもなくできるはずのプレス対応が、英語だと難易度が上がりまくることを実感……つらみ。。いや〜〜これから大丈夫かな〜〜、と一抹の不安が……。

ちょっと休憩、、、と思って昨日も入ったベーカリーで甘いものを食べはじめた矢先、
アンディさんから、ロボットさんが調子悪いとの連絡がありました。オープニングなのでたくさんの方がいらっしゃると思います、見に行ってあげてくださいますか?」とEmikoさんからメッセが。

ギャアアアまじかあああああ!!!!と熱いカフェオレをゴブゴブ飲み干し、ザッハトルテはほぼ残して美術館へダッシュ。

現地についていると、テクニカルのアンディがロボットの前に佇んでいました。
どうやらロボットの指が破損した模様。右手の指がなんだかプラプラしてました。
とはいえ、アプリケーションの稼働への影響は特にない破損なので(NAOにはよくある)、「まあ、これは……嬉しくはないですが一応展示としては大丈夫です」ということに。

会場にはアーティストっぽいオーラの方がたくさんいらしていた。プレスカンファレンスのときより全然反応良さそうな感じで、みんな面白そうに体験してくれていたので良かったです。

楽しいオープニングレセで浮かばれる

不具合を確認し、ふと気付けば異様なオーラを放つ初老の男性が目の前にいました。

よく聞くと以前のアルスで話題になってた、ロボットアームに持ち上げられながら絵を描くパフォーマンスをしているアーティストの方だったらしい。Dragan Ilicさん。

「ゲルフリート・シュトッカー(アルスの総合芸術監督)の奥さんが、この作品は絶対に見るべきだって強く言ってたから見に来たんだけど、すごく良いよ!!」と絶賛してくれて嬉しい気持ちに。。

その後アンディが展示会場から屋外のパーティー現場まで連れて行ってくれ、設営の最初から最後まで面倒を観てくれた彼ともようやく乾杯できました(しかしアンディはビールを炭酸で割っていた、、、これからまだ仕事があるそうな……ハードワーカー…)

「本当に何から何まで手伝ってくれてありがとう」と改めて御礼を言ったら、「もちろん、それが僕の仕事だからね。みんな君の展示良いって言ってるよ、頑張ってくれてありがとう」と返され、割と涙腺にきそうになりました。
アンディは非常に優秀な展覧会テクニシャンですがサウンドアーティストとしても活動しているようで、作品の方もぜひ体験してみたい気持ちに。

その後はYassineと乾杯したり、Emikoさんとじっくり話したりできて良き時間でした。

そしてなんと、私の大学時代のゼミ恩師である草原真知子先生とオープニングで再会して感動しました。
彼女は著名なメディアアートキュレーターで、アルスの審査にも代々関わられていたのでよく考えればサイバーアーツ展のオープニングにいてもおかしくなかった。
Digital Communities部門審査員のSalahさんともご対面。いつも可愛すぎる柴犬を連れ歩いている、とても快活で素敵な女性でした。日曜日に開催予定のラウンジトークのモデレーターで、自分の作品についていくつか事前質問を頂いていたのですが、切り口がとても面白くてさすがでした(彼女はジャーナリストでもある)。

若者にPOSTCITYに連行される

草原先生やSalahさんたちとの会話を楽しんでいるタイミングで、ジェレミー君という元気の良い男の子に話しかけられました。アーティストかつゲームプログラマーとしても活動しているそうで、受賞作品”ECHO”のUnityプログラム担当として参加していたとのこと(彼のポートフォリオサイトはこちら)。
「君の作品観たけどめっちゃ面白いね!!僕がやりたいこととすごく似てる!実は僕はこの美術館だけじゃなくてPOSTCITY(メイン会場)にもAIWAっていう君の作品とかなり近いコンセプトのチャットボットを展示してるんだ、ぜひ体験してほしいから今から行こうよ!!」と突然のお申し出をいただき、面白がってくれたのはとても嬉しいもののなにぶん急でビビる。
「あ、でもごめん、実はPOSTCITYの行き方をよく知らないんだよね!!連れてって!」ってウオォオォイコラアァ!!!

とはいえ私も行き方を正確に覚えているわけではなく、2人でOK CENTERの周りをグルグル回ることに。。。

うわーやっべー困った……と詰んでいるところに運良く後藤さんが通りがかり、「後藤さん、、度々マジですんません……!!」と本日二度目のSOSを求めたら「あ、今ちょうど暇だからいいですよ〜」とPOSTCITY行きのトラム乗り場まで快く連れてってくれました。神。。一日に二度窮地を救われるとは、、後藤さんにしばらく足向けて寝られません。

移動中にジェレミー君の年齢が21歳であると知る。若っ…!!近頃の若者は優秀だなあと思う。日本の漫画が好きらしく「オマエハ、モウ、シンデイル」とたまに物騒な日本語を吐いてくれました。

日本のメディアアート界隈で夜遊びパーリナイ

トラム降りてからも迷いまくりながらジェレミー君とPOSTCITYに到着したのですが、どうやらもう今日は展示は終わっているタイミングだったそうな。残念そうなジェレミー君と「とりあえず別日にまた行くよ」と解散したところで、ちょうど日本からリンツに到着したキュレーターの畠中実さんと首尾よくお会いできたので、日本からのチームと合流することに。

POSTCITYの広場が完全にフェス化してて、悪そうな人々のたまり場感が出てて笑いましたw

畠中さんに、電通のなかのかなさんに、サウンドアーティストの大和田俊さん、クリエイティブコーダーの田所淳さんなど、なんというか日本のメディアアート勢がゾロゾロ集合しているので大変愉快でした。

POSTCITYの周りの飲食店が総じてしまっていたので、謎の屋台にみんなでなだれ込む。「アルス楽しすぎやしませんか、ヤバないですか」と話をしてました。
大和田さんも私もICCの新進作家紹介コーナーで展示をしてから作家としての様々なチャンスが開いていったので、本当に畠中さんに感謝です。そして大和田さんは今度インドにレジデンシーに行くらしく、狂っててすげえ。

腹ごしらえしてPOSTCITYに戻ったところでリハが終わった和田永さんとエンカウント。
突如フリースタイルで「受賞作品講評ラップ」を始め、秀逸さにみんな爆笑。和田さんラップもうまい。
酔っ払ってるのかと思っていたらコーラしか飲んでなかったそうです。かなり最高だったので映像をアップしたいところですが和田さんのブランディング的にアレなので控えさせていただきます。

受賞作家は同じ宿にだいたい泊まっているので和田さんと宿に戻っていたのですが、その間も50メートルおきぐらいにいろんな知り合いや日本人たちとエンカウントする(ALifeの青木竜太さんやライターの森さん、落合陽一さん、博報堂の皆さんなどなど、、)歩いては立ち話をし、歩いては立ち話をし、の繰り返しでなかなか進まないw

異国にいるはずなのですが謎にホーム感がある不思議な時空間でした。世界中のメディアアート関係者が集結し、東京よりよほどホーム感ある。とはいえ朝から晩まで動き回って足がパンパン、疲労困憊だったのでこの日は宿に戻ってすぐに撃沈。。

ABOUT ME
etsuko-ichihara
メディアアーティスト。日本的な文化・習慣・信仰を独自の観点で読み解き、テクノロジーを用いて新しい切り口を示す作品を制作する。アートの文脈を知らない人も広く楽しめる作品性から、国内の新聞・テレビ・Web媒体、海外雑誌等、多様なメディアに取り上げられている。第20回文化庁メディア芸術祭エンターテイメント部門優秀賞を受賞、総務省異能vation(独創的な人特別枠)に採択。